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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.2

2015年10月1日

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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.2
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▲サックスを担いでハバナの街をゆくセサル・ロペス夫妻

公開以来、自主制作映画としては異例の大ヒットを続けている『Cu-Bop』。

写真家/ライターとして20年間キューバに通い続けてきた高橋慎一さんがビデオと寝袋持参で現地ミュージシャンの家に泊まり込み、激変する社会の中で揺れる音楽家の素顔に迫った貴重な音楽ドキュメンタリーだ。

それぞれの人生が交差する瞬間を見事に切りとり、ロサンゼルスで開かれた「PAN AFRICAM FILM FESTIVAL」のオフィシャルセレクションにも選ばれた傑作はいかに誕生したのか。

CAMPFIREのクラウドファンディングを活用し、わずか300万円の制作費で世界の喝采を浴びた制作の舞台裏。4回連続インタビューの第2弾。

【前回までの記事】

〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.1

情熱だけを武器に、キューバ音楽の「現在」を伝えるレーベルを設立

ー2000年に、キューバ音楽研究家・二田綾子さんとふたりでインディペンデントの「カミータ・レーベル」を設立されたのは、その熱さを伝えたいという気持ちが大きかったんですね。

高橋慎一)はい。ちょうどその頃、さっきお話しした『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の映画が大ヒットして。僕自身、アルバム収録のリハーサル現場に通っていたくらいなので彼らの音楽は大好きなんですけど、あれはあくまで欧米人の視点から見た「忘れられたハバナの老ミュージシャンたちが再度スポットライトを浴びる」物語だったんですね。

ごく普通のキューバ人たちが日常的に聴いたり、踊ったりしている音楽とは相当ギャップがあった。それもあって、自分なりに考えた「今のキューバ音楽ってこんな感じですよ」というCDを作ってみたくなっちゃったんです。しかも無謀にも、自分自身のプロデュースで(笑)。

ーそれが『ハバナ・ジャム・セッション』シリーズですね。既存のバンドの作品ではなく、キューバン・サルサのトップバンドから凄腕ミュージシャンを高橋さんがピックアップしてセッションさせるという、かなり大胆な…。

高橋)大胆というか、はっきりいって無茶苦茶ですよね(笑)。当時は、業界の慣習とかミュージシャン同士の関係性とか、本当に何も知らなかったので…。これ、逆に置き換えてみるとわかりやすいんですよ。

たとえば、キューバからわけのわからない“演歌かぶれ”の若造が突然やってきて、「ニホンのエンカ、スバラシイ! ぜひ北島三郎と森進一と五木ひろしとでコーラス・グループを結成したいデス」と言ったら、関係者はあ然とするでしょう。

ーはははは、たしかに。空気の読めないことはなはだしい。

高橋)そうなんです(笑)。案の定、とんでもないトラブルを何度も引き起こしまして。世話になった人に迷惑をかけたり、ミュージシャンを激怒させたり…。もうハバナの安宿で、何度も涙にくれました。

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▲ガレージでの熱いセッションを撮影する高橋監督

ーそれでも諦めず、実現に漕ぎつけたのはすごいですね。『ハバナ・ジャム・セッション』のCDは、現在まで12タイトル発売されています。

高橋)ありがとうございます。正直、すったもんだ続きの10数年間でしたが…レコーディングを通じてキューバのトップ・ミュージシャンたちと信頼関係を築けたのは、僕にとっては大きな財産になりました。ただ、2010年代に入ったくらいからかな。自分の中で「もうCDなんて作ってる場合じゃないのかな」という気持ちが、少しずつ芽生えてきたんですね。

ーどうしてでしょう?

高橋)音楽配信やストリーミングのサービスが一気に台頭して、CDが世界的に売れなくなったこともあります。でももっと大きかったのは、キューバ社会の変化のスピードをCD制作では捉えきれなくなったことですね。先ほども話に出たように、2008年にカストロ議長が表舞台から退いてからキューバは大きく変わりました。

永遠に続くはずだった社会主義体制が遠からず終わるかもしれないと、社会全体にそんな雰囲気が漂いだした。ハバナの雰囲気も急速に変化して、2010年代に入ると僕が一緒にレコーディングしていたミュージシャンの中にもニューヨークに亡命する者が増えていきます。

こういう状況で、以前と同じようにレコーディングすることに何の意味があるんだろう。どうすればこの変化をダイレクトに記録できるかと悩んだ結果、いわばやむにやまれぬ感じで映画作りに突入していったんです。それが2011年でした。

経験値ゼロの状態から、音楽ドキュメンタリーの制作を決意

ーその時点では、映像制作のノウハウなどはまったくなかった?

高橋)レーベルを設立したときと同じで、まったくの素人でした(笑)。ただ、僕の本業はカメラマン/ライターですが、畑違いのCD制作で山ほどトラブルを経験し、ミュージシャンたちと本気で喧嘩することで、ようやくキューバという国の一端を捉えた写真や文章を生み出せるようになったという実感があったんですね。

一過性の旅行者では得られない視点を持ちえたっていうのかな。だったらここで、もうヒトヤマ超えてみたい。時代の変化に直面している友人のミュージシャンたちの生活と本気で向きあえば、いままでなかった映像作品が作れるんじゃないかと。

そう考えたのが、今回の『Cu-Bop』のきっかけでした。それで、レーベルの運営パートナーである二田に「俺は映画を作る!」と宣言して、とりあえずビデオカメラを持ってキューバに行ったんです。

ー二田さんの反応はいかがでした?

高橋)「映画を撮るって制作費はどうするの?」と、しごく当たり前のことを言われました。でも、そのときはテンション上がっちゃってますから、「いや、アベベは運動靴を持たずに裸足で金メダルを獲った。俺にもできる!」とか、わけのわからない理論を振りかざして。彼女が自分の家族撮影用に買っていたハンディカムを奪いとるように借りて飛行機に乗ったんです。

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▲高橋慎一

ーごちゃごちゃ考えるより、まずは行動だと。カミータ・レーベル設立時とまったく同じパターンじゃないですか(笑)。

高橋)言われてみればその通りですね(笑)。で、キューバに到着したその足で、サックス奏者のセサル・ロペスの家に行きまして。「キューバ音楽の“現在”を伝えるドキュメンタリーを作ろうと思うんだ」と相談したんです。

ー“音楽大国”キューバの中でもNo.1のプレイヤー。ハバナに止まって音楽活動を続ける、本作の主人公のひとりですね。

高橋)ええ、キューバのみならず全世界レベルで見ても、最高峰のプレイヤーだと僕は思います。パワー、スピード、テクニック。音色と音圧。どの要素をとっても、人智を超えた感じがする。面白いのは、僕が「ドキュメンタリーを作ろうと思うんです」と話すと、大部分の日本人はまず「資金や機材はどうするの?」って聞き返すんですよ。

一方、キューバ人からは必ずと言っていいほど「そいつは良いアイデアだ!」的な反応が返ってくる(笑)。セサルもまさにそうで、具体的な撮影プランなど何もない段階なのに「お前はグレイトだ!」と言ってくれました。

家の奥から母親まで登場して「私も出演するわ」と踊り出したり…。まぁ、だからといってこちらの思惑どおりに協力してくれるかというと、まったく別問題なんですけど(笑)。そのときは励まされました。「よし、俺の狙いは間違ってなかった」と。

ードキュメンタリーを作るにあたって、なぜ最初にセサルのところを訪れたのですか?

高橋)たしかに彼は現代キューバを代表するジャズ・ミュージシャンですが、それよりもむしろ僕が過去に制作したセサルのCDがキューバの主要な音楽賞にノミネートされたりして、信頼関係ができていたことが大きかったですね。

テーマはあくまで「いまのキューバに生きる音楽家たちのパーソナルな物語」だったので。どれだけたくさん有名ミュージシャンが出てきても、彼らの素の生活とか本音が撮影できないと意味がない。ですから今回、僕と直接つながりのあるミュージシャン以外は撮っていません。

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▲ホームパーティーでお母さんと抱き合うセサル・ロペス

ーまず最初の段階で、ひとつの縛りを自分に課したと。

高橋)そういうことです。見かけの派手さを追究し始めると、資金力の豊富なテレビや映画にはどうしたってかないません。完全インディペンデントの僕にもし強みがあるとしたら、気が済むまで被写体に密着して素顔に迫れるという、その一点のみ。

ボクシングにたとえると、ノーガードで一発逆転KOパンチに賭けるスタイルです(笑)。幸い僕のまわりには、そんなワガママも受け容れてくれる友人のミュージシャンたちがいた。それで普通はありえない滅茶苦茶なやり方でも、何とか撮影をスタートさせることができたんです。

「音楽」と「音楽家の日常」を同時にビデオカメラで切り取る

ーそこからキューバに通い、ミュージシャンの生活に密着する生活が始まったわけですね。映像を撮っている際、何か意識したことはありましたか?

高橋)全体の構成などまったく決めず、ほとんど衝動的にビデオを回し始めたのですが、最初に「これだけはやめよう」という決まりをひとつ設けました。それは「これ見よがしなインタビューシーンは入れない」ということです。

世の中に出回っている音楽ドキュメンタリーを観てみると、スタジオのミキシング卓をバックにした有名ミュージシャンがもっともらしく音楽哲学を語るシーンが、それこそ山のように出てくるんですね。前々から僕は、すごく違和感があって。カメラマン/ライターで飯を食べている人間として、あれは絶対ホンネじゃないなと(笑)。

ーああ、なるほど。

高橋)優れたミュージシャンというのは、おしなべてセンシティブで。うわべじゃない表情や言葉を引っ張り出すのはそう簡単じゃありません。僕たちカメラマンやライターはいつもそこで苦労しています。だから、与えられた台本を読むようにつらつら音楽を語っているドキュメンタリーを観ると、一気に興醒めしてしまうんですね。

ーたしかに『Cu-Bop』には、キューバ出身のジャズ・ミュージシャンの貴重な証言がたくさん入っていますが、そのほとんどが生活空間の中で自然に撮影されています。

高橋)はい。撮る側と撮られる側の関係性ができあがった後、自然に出てきた言葉だけを少し入れています。主人公のひとりであるセサル・ロペスのインタビューは、結局1回もしませんでした。その代わりに彼のお母さんにカメラを向けて、幼い頃のエピソードを語ってもらった。

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ーその一方で、キューバで生きるジャズ・ミュージシャンの日常は、これ以上ないほどリアルに写し取られてますね。

高橋)キューバ音楽の「現在」を撮りたければ、音楽家と生活を共にするしかない。それは最初の段階で決めていました。ですから、ホテルの予約は絶対にしない。ハバナもニューヨークも寝袋持参で(笑)。

「また回してるのか」と呆れられながら、彼らが寝ているところから食事しているところ、子供を学校に送るところまで、とにかく生活まるごとを映像に収めていきました。音楽を撮るのは、それからだろうと。

ー「音楽」と「音楽家のリアルな日常」を分かちがたいものとして捉えているのも、映画『Cu-Bop』の大きな特徴かもしれません。それが従来の音楽ドキュメンタリーとは、ひと味違う魅力になっている。

高橋)ありがとうございます。ただ、撮ってる最中はけっこう焦りました。わざとらしいスタジオ・セッションなどは設けず、自然なかたちで音楽が生まれてきたときにビデオを回そうと決めていたので。なかなか演奏してくれない(笑)。「滞在費もカツカツだし、そろそろ撮らせてくれ!」って、何度も喉まで出かかりました。

ー映画の前半に、セサル率いる「アバナ・アンサンブル」の練習風景が出てきますね。キューバを代表するバンドが、雑然としたガレージで熱いセッションを繰り広げている。演奏レベルの高さと場所の質素さとのギャップに驚きました。

高橋)彼らの練習場所は防音設備もない物置なんですけど、あれがまさにキューバ音楽の「現実」なんですね。あるいは、キューバに残って音楽を続けることを選択したミュージシャンたちの「現実」と言ってもいい。でも、あんなヨレヨレのパジャマみたいな服を着たおっさんが、あれほど超絶的な演奏をしれっとこなしてしまうのって、面白いじゃないですか。

ちなみに、あの場面でセサルが吹いている小さな管楽器はカーブドソプラノサックスといって、プロでもピッチ(音程)コントロールが非常に難しいんですね。そんな楽器をフラフラ踊りながら軽々と吹いてる姿を見て、あるジャズ・ミュージシャンの方は「やっぱり化け物だよね」と仰ってました(笑)。

ーその少し後には、若手ピアニストのロランド・ルナが、自宅で「ムーン・リバー」を弾くシーンも出てきます。菊池成孔さんの表現を借りると「全身が楽器と一体化したようなエネルギッシュかつリリカルでスキルフルな演奏」で、本作のクライマックスのひとつです。

高橋)彼は「モントルー・ジャズフェスティバル」のソロ・ピアノ部門で優勝した、若手No.1のピアニストで、現在は「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」にも参加しています。そんなレベルのミュージシャンでも、普段はボロボロのアップライトピアノで練習している。音楽の美しさと一緒に、そういう生活事情みたいなものも伝わればいいなと。

第3回はいよいよクライマックスのライブシーン撮影。“投獄”のリスク覚悟で決行した制作の賭けについて詳しく語ります。どうぞお楽しみに!

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〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.1
〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.3

【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary 作品情報】

監督・脚本・編集:高橋慎一

製作:Kamita Label(高橋慎一+二田綾子)
出演:セサル・ロペス / エミリオ・マルティニ / ホセ・エルミーダ / オットー・サンタナ / ルイ・エレーラ / アクセル・トスカ / アマウリ・アコスタ / ルケス・カーティス / ロランド・ルナ / アデル・ゴンザレス / ミゲル・バルデス / イレアナ・サンチェス

【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary】

10月10日(土)渋谷アップリンクにて、続映が決定!

連日レイトショーを基本に1日1回の上映。劇場窓口とディスクユニオン(新宿ラテン館 / お茶の水JAZZTOKYO)で前売り券を購入すると、高橋監督が撮り下ろしたキューバ写真のオリジナルプリントをプレゼント

会場:渋谷アップリンク

住所:東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1,2階 / 03-6825-5503
※詳細はこちらからご確認ください

(Last Update:2016年9月13日)