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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.3

October 8, 2015

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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.3

公開以来、自主制作映画としては異例の大ヒットを続けている『Cu-Bop』。

写真家/ライターとして20年間キューバに通い続けてきた高橋慎一さんがビデオと寝袋持参で現地ミュージシャンの家に泊まり込み、激変する社会の中で揺れる音楽家の素顔に迫った貴重な音楽ドキュメンタリーだ。

それぞれの人生が交差する瞬間を見事に切りとり、ロサンゼルスで開かれた「PAN AFRICAM FILM FESTIVAL」のオフィシャルセレクションにも選ばれた傑作はいかに誕生したのか。

CAMPFIREのクラウドファンディングを活用し、わずか300万円の制作費で世界の喝采を浴びた制作の舞台裏。4回連続インタビューの第3弾。

【前回までの記事】

〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.1
〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.2

ニューヨークを描かなければ、キューバの「現在」も描けない!

ーキューバに残って音楽活動を続けるセサル・ロペスを『Cu-Bop』の主人公の1人とするならば、もう1人の主人公はニューヨークに移住したピアニストのアクセル・トスカです。地下鉄を無賃乗車し、ボロアパートでパンを囓りながら新時代のジャズを追究しているという、破天荒なキャラクター。

高橋慎一)とにかくメチャクチャなんですよ。自己主張は強いし、約束だって平気で破るし。彼と付き合ったことで、僕の寿命はけっこう縮まってると思う(笑)。ただ、音楽的には間違いなく天才です。セサルとはまた違った種類の。

ーキューバのミュージシャンを長年追ってきた高橋さんから見ると、彼はどういうタイプですか?

高橋)キューバには、たとえばグラミー賞を受賞したゴンサル・ルバルカバに代表されるように、クラシックの英才教育を受けた超絶テクニックのジャズ・ピアニストがたくさんいるんです。

『Cu-Bop』に登場するロランド・ルナも、どちらかというとそうかな。でも、アクセルはまったく違う。もちろん技術は凄いんですけど、メンタル的には、街の不良がたまたまバイクにまたがらずにピアノを弾いているような…。

ーははは、たしかに(笑)。ニューヨークの狭いスタジオで、アクセル率いるバンドが練習するシーンが映画の中にありましたが、ロックとかヒップホップの要素がごちゃごちゃに混ざってる感じでした。

高橋)明らかに普通じゃないでしょう(笑)。少なくとも、オーセンティックなキューバ・ジャズとはほど遠い。ただ、エンターテインメントというのは本来、そういう雑食性のパワーを含んでるべきじゃないかという気もするんですよ。

ほら、たとえば昔のプロレスラーって、どう見ても普通じゃない佇まいの人が多かったじゃないですか。でも最近は体こそムキムキだけど、どこかサラリーマンみたいに堅実な雰囲気で。個人的にはお金を払ってまで見る気がしない。事情はアメリカのジャズ界も同じで。勉強熱心な偏差値エリートみたいなミュージシャンがけっこう多いんですよ。

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▲ニューヨーク、最先端のクラブでDJとセッションするアクセル・トスカ

ーその意味でもアクセルは、被写体として魅力的だった。

高橋)万事マイペースなので、一緒にいると振り回されて大半なんですけどね。やっぱり“絵”になるんです。アクセルとは、彼がニューヨークに亡命する前からの付き合いで。2004年には僕らのレーベルでデビュー・アルバムも作っています。

だから音楽的才能は熟知してましたし、こいつを追いかければ、何か面白いことが起きるんじゃないかと(笑)。

ー実際に、映画の後半ではとんでもない流れになっていくわけですが(笑)。ともあれ、アメリカの大都市で暮らすキューバ人音楽家を追うことで、物語の対立軸がより明確になっている気がしました。

高橋)キューバの「現在」を描くとき、外側の視点が全然ないのはやっぱり変じゃないかなと。僕自身の皮膚感覚としても、そう感じたんですね。現にここ数年、一緒に仕事をしてきたミュージシャンが何人もニューヨークに亡命していて。

その変化が『Cu-Bop』を撮り始めたきっかけだったので。それもあって2011年に最初の撮影をキューバで行った後、“返す刀”ですぐニューヨークに飛びました。そこで知り合いたちと再開し、彼らの生活を見せてもらって…。

この映画は「キューバで暮らす音楽家」と「キューバを離れた音楽家」の両方撮らなきゃダメだと決めたんです。そこでようやく物語の骨格が定まった。

ー最初は衝動的にビデオを回し初めて、行動していく中でだんだん、本当に撮りたいテーマが定まっていったと。

高橋)生まれつき計画性が欠如している(笑)。ただ、もし最初に頭でっかちなテーマを掲げてしまっていたら、キューバに通うだけで満足してニューヨークは撮らなかった気がします。そういう意味では、とにかくビデオを回すところから始めて、結果的には正解だったのかもしれません。

「いざとなったら牢獄に…」の覚悟で帰国ライブを決行

ー冒頭でも伺いましたが、2013年12月、高橋さんはアクセルと彼のバンドである (U)nityのメンバー2人を、アーティスト・ビザなしでキューバに連れていきます。亡命中のアクセルにとっては5年ぶりの帰国であり、プロジェクトにとってもかなり大きなリスクが伴う賭けだったわけですよね。

高橋)当時はテンション上がっちゃってたんですけど、いま冷静に振り返ると冷や汗が出ます。社会主義全盛のキューバなら、刑務所にぶち込まれても全然おかしくない。

『Cu-Bop』上映後のトークショーに出てくださったオルケスタ・デル・ソルの都筑章浩さんには、「この映画、出てくるミュージシャンもみんなイカレてるけど、一番おかしいのは監督」と言われました。キューバの実情を知っている人間からすると、はっきり言って「目が点だよね」って(笑)。

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▲ハーレムにあるアクセルのアパート。狭い部屋にベッドとキーボードが並ぶ

ーちなみに(U)nityのドラマーであるアマウリ・アコスタは、両親が亡命してきた在米キューバ2世。ベーシストのルケス・カーティスは、プエルト・リコとアンティル諸島にルーツを持つラテン系米国人です。自分で納得して里帰りするアクセルに対して、2人の立場はもっと微妙だったのでは?

高橋)まさに仰るとおりで、きわめてリスキーな思い付きを受け容れてくれたアマウリとルケスにはとても感謝しています。実を言うと、最初は僕もアクセルだけをキューバに連れていこうと思ってたんですよ。

ーあ、そうだったんですか?

高橋)はい。亡命したアクセルを帰国させ、セサル・ロペスが率いるアバナ・アンサンブルとセッションさせればいいと思っていた。でも彼にそう話したら、「いやシンイチ、それは違う」と。

「いま俺がニューヨークでやってるバンドを連れていって、キューバの若い連中に聴かせなきゃ意味がない」って。あんなどうしようもなくいい加減な奴なのに、そこだけは映画の本質に関わることをズバッと提案してきまして(笑)。

ーへええ、それはすごいじゃないですか。

高橋)そう言われて、僕もよくよく考えてみたんです。3人連れていくとなると、金銭的にはかなり厳しくなる。でもたしかに、ニューヨークで新たなジャズを創ろうと頑張ってる若手バンドをキューバのNo.1バンドにぶつけた方が、若い子たちは面白がってくれるだろうし。

第一、撮りたいテーマに合ってるんじゃないかと。いろんな意味でトラブルの危険性は増すけれど、いざとなりゃ4人で刑務所に入ればいいやと腹を括りまして(笑)。

ー2つのバンドが火花を散らす舞台は、ハバナの芸術大学(Instituto Superior de Arte Cuba)。キューバにおける音楽教育の最高学府だとか。

高橋)最初は街のサルサ・クラブもいいかなと思ったんです。ただ、せっかくいい感じの場所を見つけても、そこにはピアノがなかったりする。素晴らしいピアニストは山ほどいるのに肝心のピアノが決定的に不足しているというのが、キューバという国の実情なんですね。

そういう状況の中で、じゃあ芸大はどうだろうという案が浮かんできた。キューバ音楽界では著名人のセサルが掛け合ってくれたんですが、それでも申請してから許可が下りるまでに8か月かかりました。もちろん当局には、ニューヨークからノー・ビザでやってきたミュージシャンと“対バン”するなんてことは一切伝えていない。

ーたしかに「ビザなしで帰ってきた亡命者と共演します」なんて、学校には言いようがないですもんね。

高橋)ええ。表面上はあくまで「セサルのアバナ・アンサンブルが学生を前にデモンストレーション演奏をするところを撮影する」という名目です。考えてみれば、セサルもちょっと頭がオカシイ(笑)。

ぶつかり合う2つの個性、そのコントラストから見えてくるもの

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▲ハバナのジャズクラブで演奏するアバナ・アンサンブル

ー何食わぬ顔で“共犯者”になってくれたと。映画の後半には、そのアバナ・アンサンブルと、アクセル率いる(U)nityの演奏がたっぷり収められています。これが本当に素晴らしかった!

高橋)ありがとうございます!

ー最初に出てくるアバナの演奏は、ドラマーとパーカッショニストの長いセッションから始まるでしょう。打楽器同士の掛け合いは、ディープな音楽好き以外は退屈しがちなところですが、あえてカットせずに入れておられますね。

高橋)あのパート、ものすごくパワフルで躍動的でしょう。満足な楽器もなく、冷房もきかない物置で日々練習している彼らの演奏技術がいかにとんでもない水準にあるかということを、映画を観る方にしっかり感じてほしかったんです。

パンフレットに四方田犬彦さんも書いてくださいましたが、彼らは海外に自由に出て行けない代償として、自分たちのジャズをより深く純粋に突き詰めて、それこそ洗練の極みに達している。その凄まじさをきちんと見せたいなと。

ー途中でギタリスト(エルミオ・マルティニ)のソロが入るでしょう。文字どおり超絶的テクニックで、学生たちもノリノリです。それを横から観ている(U)nityメンバーの呆気にとられた表情が印象的でした。「おい、俺たち、この後で演奏するのか!?」みたいな(笑)。

高橋)そうそう(笑)。実際問題、(U)nityの演奏は最初、なかなか盛り上がらなかったんですよ。直前に出たセサルのバンドがとんでもないプレイを見せたばかりだし、コンディションも最高とは言いがたくて…。リハの時間もない。ピアノの調律もままならない。床がボロすぎてベースすらまともに立たない。

しかも、映画にもしっかり写ってますが、ドラムセットのシンバルがいきなり落っこちちゃったりして。まさにトラブル続出という感じでした。

ーアクセルがピアノを弾きつつメンバーにアイコンタクトを送って、必死で建て直そうとしている様子がリアルに伝わってきます。

高橋)あのハートの強さがアクセルなんですよ。ボロボロの状態から始めて、最後はしっかりキューバの若者を熱狂させちゃいましたからね。そのタフさを見せたくて、(U)nityの演奏場面ではトラブル続きの前半からクライマックスの大団円まですべて入れ込んだんです。

もうひとつ凄いと思ったのは、後に編集作業に入ったとき、アクセルが僕に「ラッシュ映像を見せてくれ」とは一度も言わなかったこと。ミュージシャンという人種は本当にセンシティブだから、本来あんなシーンは公開されたくないはずなんですね。そ

のときは何食わぬ顔で演奏を続けてましたけど、ビデオで観返すと表情だってしっかり引き攣っている(笑)。でも今回、「ここはカットしてくれ」みたいなことを言った人は、アクセルを含めて誰もいませんでした。

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ー演奏タッチもすごく対照的で…。あの芸大でのライブは結果的に「故国に残ったキューバ人」と「新天地を求めたキューバ人」とのコントラストを音楽そのもので語る、名シーンになっていた気がします。

高橋)両バンドとも本当に素晴らしい演奏をしてくれました。今回、全撮影を通じて数多くのライブを収録しましたが、正直、あそこまで感動的なシーンはあの日、あの瞬間しかなかったと思う。やっぱり、捕まってもいい覚悟で入国したことが大きかったのかもしれません。

それで2バンドとも覚悟を決めて、あんな一期一会の演奏をしてくれたんじゃないかと。映画をご覧になった方の中でも、意見がけっこう分かれるんですよ。アバナ・アンサンブルの超絶的な演奏テクニックにノックアウトされたと仰る方もいれば、粗削りでもパワーとインパクトが圧倒的な(U)nityがよかったという方もいる。

そうやっていろんな意見が伺えるのは、作り手として一番嬉しいですね。ハバナの芸大でライブを目撃したキューバの若い子たちも、きっと何か感じてくれたんじゃないかなと。

ラストの第4回は製作秘話。資金集めの苦労からCAMPFIREとの出会いまで、貴重な証言を詳しくお届けします。どうぞお楽しみに!

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〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.2

【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary 作品情報】

監督・脚本・編集:高橋慎一

製作:Kamita Label(高橋慎一+二田綾子)
出演:セサル・ロペス / エミリオ・マルティニ / ホセ・エルミーダ / オットー・サンタナ / ルイ・エレーラ / アクセル・トスカ / アマウリ・アコスタ / ルケス・カーティス / ロランド・ルナ / アデル・ゴンザレス / ミゲル・バルデス / イレアナ・サンチェス

【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary】

10月10日(土)渋谷アップリンクにて、続映が決定!
連日レイトショーを基本に1日1回の上映。劇場窓口とディスクユニオン(新宿ラテン館/お茶の水JAZZTOKYO)で前売り券を購入すると、高橋監督が撮り下ろしたキューバ写真のオリジナルプリントをプレゼント

上映日程:

  • 2015年10月10日(土) 10:45〜12:42 ※上映後に高橋慎一監督の舞台挨拶あり。
  • 2015年10月10日(土) 20:40〜22:37 ※上映後に高橋慎一監督の舞台挨拶あり。
  • 2015年10月11日(日) 10:45〜12:42
  • 2015年10月11日(日) 20:40〜22:37
  • 2015年10月12日(月) 10:45〜12:42
  • 2015年10月12日(月) 20:40〜22:37
  • 2015年10月13日(火) 20:40〜22:37
  • 2015年10月14日(水) 10:45〜12:42
  • 2015年10月14日(水) 20:40〜22:37
  • 2015年10月15日(木) 20:40〜22:37
  • 2015年10月16日(金) 20:40〜22:37

会場:渋谷アップリンク
住所:東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1,2階 / 03-6825-5503
※詳細はこちらからご確認ください。