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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.4

2015年10月15日

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キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.4

公開以来、自主制作映画としては異例の大ヒットを続けている『Cu-Bop』。

写真家/ライターとして20年間キューバに通い続けてきた高橋慎一さんがビデオと寝袋持参で現地ミュージシャンの家に泊まり込み、激変する社会の中で揺れる音楽家の素顔に迫った貴重な音楽ドキュメンタリーだ。

それぞれの人生が交差する瞬間を見事に切りとり、ロサンゼルスで開かれた「PAN AFRICAM FILM FESTIVAL」のオフィシャルセレクションにも選ばれた傑作はいかに誕生したのか。CAMPFIREのクラウドファンディングを活用し、わずか300万円の制作費で世界の喝采を浴びた制作の舞台裏。4回連続インタビューの最終回。

【前回までの記事】
〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.1
〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.2
〈インタビュー〉キューバ社会に生きる音楽家の素顔に迫った映画『Cu-Bop』その舞台裏 vol.3

オール手弁当のDIY精神を、クラウドファンディングが後押し

ーキューバ音楽の現場に足を運び、自分でビデオカメラを回して素材を集めた『Cu-Bop』。2011年12月に撮影を始めて以来、取材の旅はトータル何回に及んだんですか?

高橋慎一)キューバが5回、ニューヨークが5回になりました。スタート時点では、撮影から編集まですべて含めて200万円くらいに収めようと思っていたんです。レーベルの共同経営者(キューバ音楽研究家の二田綾子さん)がスペイン語もできるので、彼女に通訳も頼めば何とかそのくらいで作れるかなと。

ところが当初の考えと違ってニューヨーク編も入れたくなり、取材旅行の回数が増えるにつれて、2人分の交通費だけで200万を突破してしまった。

ーエキサイティングな映像素材はどんどん貯まっていく一方で、自己資金だけでは足りないことが判明したと。クラウドファンディングによる資金調達を視野に入れたのは、いつ頃でした?

高橋)キューバに2回、ニューヨークに2回行ったくらいのタイミングかな。親しくしている雑誌の若い編集者が、たまたま僕の現状を知って。

「高橋さん、そういう事情なら絶対クラウドファンディングを試した方がいいよ」と、半ば強引に薦めてくれました。最初は「俺、よくわからないからいいよ」と渋っていたのですが、いやぁ、いま思い返すとありがたかったなと(笑)。

ー2012年6月28日、目標金額30万円で製作費を公募。実際には自主映画としては異例の達成率200%で、60万円の支援が集まりました。

高橋)おかげで編集のためのツールを手に入れることができました。それ以外にも英語の字幕をネイティブの方にきちんとチェックしてもらったり、整音を永田一直さんという人気DJに格安でお願いしたり…。

この映画、通訳にしても編集プロセスにしても、自分たちで何とかなる作業はすべて手弁当でやってるんですね。でも1本の映画を完成させるとなると、素人ではどうしようもない部分がでてくる。たとえば整音にしても、やはり音楽が生まれる瞬間を見せる作品なので、僕のスキルではどうしても足りない。クラウドファンディングの資金があって、初めて『Cu-Bop』を完成させることができました。

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▲ロサンゼルスにある『全米監督協会』でスピーチを行った高橋監督

ートータルの制作費はどのくらいかかりましたか?

高橋)一応、オフィシャルには「300万円」と言っています(笑)。ただこれはあくまでも映画製作にかかった実費。今回の『Cu-Bop』には、さまざまな方がほぼボランティア状態で関わってくださって。たとえばライブ撮影を手伝ってくれた映画監督の浅井康博さんにしても、キューバへの渡航費・滞在費は基本自腹で負担してくれました。アート・ディレクションの吉永昌生さんもそう。

彼は、僕がYouTubeにアップしたCAMPFIRE用の予告編映像を見て、「この作品は絶対に評価されるから、自分にデザインさせてくれ」と自ら売り込んできてくれたんです。凄いのは映画本編に出てくるテロップなども、基本すべてオリジナルで切り出してくれてるんですよ。

僕自身、キューバやニューヨークではミュージシャンの家に泊まりこんでいるから、滞在費はただ(笑)。いわば、可能なところはオール手弁当の、DIY(DO IT YOURSELF)精神ですね。そういう協力が得られなかったら、制作費は倍かかっていたかもしれません。

ー編集作業もすべて高橋さん自身が担当したんですよね。

高橋)はい。MacBook Proに「Final Cut」という動画編集ソフトを入れまして。いつどこに行くにも、つねに持ち歩いてました。

僕は職業カメラマンなので、静止画のことはわかるんですが、動画の経験はゼロ。最初は知り合いのツテでプロの編集さんにも相談したんですが、ストーリーに沿ってシンプルに映像を繋いでいくだけでも、1時間半の作品なら20万円が相場だと言われて。

ーなるほど。だったらもう、自分で編集作業を学ぶしかないと。

高橋)そうなんです。何しろ3年半かけて撮った素材が、数百時間分はあったので。そんなの、誰かにお願いしたら、お金がいくらあっても足りない(笑)。しかも編集マンというのは物語の骨格を整えるプロでもあるので。

僕が必死で撮ってきた素材をいくら丸ごと渡しても、現場の空気や空気感みたいなものはいつの間にか抜け落ちて、仕上がりはきれいだけど僕の見たキューバとは違うドキュメンタリーになっちゃうかもしれない。そう考えると、下手でも自分で作れなきゃダメだなと思って。毎日がレッスンでした。

自分が経験した感動を、わかりやすい“物語”に当てはめない

ー編集の過程で、特に意識したことは何でしょう?

高橋)すでにある音楽ドキュメンタリーと似通った物語にはしないこと、かな。いまの話とも重なりますが、自分が現場で見たり感じたりしたものを無意識のうちにフォーマットに当てはめてしまわないよう、そこは強く意識しましたね。

具体的には、音楽ドキュメンタリー映画の名作DVDを何十本も買いまくって。構成を勉強しつつ、同じにならないよう何度も観返しました。

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▲高橋慎一

ー具体的にはどういう作品ですか?

高橋9たとえばルーマニアの小さな村で生まれたブラスバンド(ファンファーレ・チォカリーア)が世界を席巻する『炎のジプシー・ブラス』(2002年)や、コンゴの路上で暮らす車椅子音楽家のバンドを追った『ベンダ・ビリリ 〜もう一つのキンシャサの奇跡』(2010年)。

あと日本の作品だと、沖縄県宮古諸島に伝わる古謡を収めた『スケッチ・オブ・ミャーク』(2012年)は繰り返し観ました。もちろん、映画版『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(1999年)も。これはキューバで同じ風景を撮らないという意味もありました。

ーいま挙がった音楽ドキュメンタリーには、どれも明確な物語性がありますよね。たとえば映画版『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』なら、ハバナの忘れられた老ミュージシャンたちが、最後にはアメリカのカーネギーホールに立って万雷の拍手を浴びる。ドキュメンタリーとはいえ、そういう背骨となるストーリーをあらかじめ用意しようとは考えなかった?

高橋)そこは編集しながら、つねに迷ったところです。僕自身、カメラマンでありライターでもあるので、“物語”が人を惹き付ける強さはよく理解している。ただ『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』や『ベンダ・ビリリ』を観返すと、そのオーラがあまりにも強すぎて、音楽の印象が薄れてしまっているところもあると感じたんです。

音楽ファンとして、それは残念だなと。だけど物語性を完全に排除したら、単なる映像の集積になってしまう。僕の考えたバランスが果たして正しかったのかどうかは、観てくださった方に判断していただくしかありません。ただ、僕なりのやり方として、彼らが生活している街とか住居のショットは、かなり意識的に挿入しています。

ーセサルが路上でお母さんとダンスを踊ったり、アクセルの狭いアパートの窓からニューヨークの摩天楼が見えたり…。たしかに印象的な風景ショットがたくさんありました。

高橋 彼らがどういう街に住んで何を食べているかって、この映画ではすごく重要だと思ったんです。

そういう風景ショットは動画でも、自分の本職である静止画写真の感覚で撮影しています。三脚をきっちり立て、水準器も構えて…。その場の自然音だけで、編集段階でBGMも付けませんでした。

資金援助はもちろん、パトロンのメッセージに強く励まされた

ー今回CAMPFIREのクラウドファンディングを試してみて、一番よかったと思うことって何ですか?

高橋)うーん…。もちろん資金の援助もありがたかったんですが、それ以上にパトロンの皆さんからいただいたメッセージが嬉しかったですね。僕の映画に賛同してくれてる方が、こんなにいるのかと。

最後の支援者はニューヨークのハーレムで確認したんですが、真面目な話、ハーレムで寝袋にくるまりながら涙が出ましたから。

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▲ハーレムにあるアクセルのアパートに、寝袋と機材を並べて映画撮影の拠点とした

ー実は当初、目標を「30万円」に設定されてたんですよね。それが支援者が多く、達成度200%(60万円)で終了した。最初の30万というのは、ちょっと控え目な印象もあるのですが…。

高橋)僕なんかの映画を助けてくれる人がそんなにいるわけがないと、勝手に思い込んでたんですね。ただ、作品を完成させるために、どうしてももう一度キューバとニューヨークに出向く必要があったので。

その分のチケット代だけでも何とかならないかと、藁をもつかむ気持ちで(笑)。結局、CAMPFIREで集まった71人と、僕自身がブログで募った37人の支援で、合計100万円以上の資金が集まり、きちんとラストのシーンまで撮ることができました。

ー支援者へのリターンを決める際に意識したことは?

高橋)支援してくださる方に、絶対ソンした気分をさせない。シンプルですが、それに尽きると思います。少し失礼な言い方になるかもしれませんが、昨今のクラウドファンディングを見てると、お金を支援してもらうということを軽く考えてるんじゃないかと疑問を感じるケースもあるんですね。昔、僕の実家は商売をやっていて。

しかも父親は店を倒産させてタクシーの運転手になったりしたので、商いの大変さ、お金をいただくありがたさは身に染みて知っているつもりです。僕の仕事でいっても、3,000円を稼ぐのがどれだけ大変かと思うと、1円だって疎かにはできない。

ークラウドファンディングを活用する際、その気持ちは一番大事ですよね。

高橋)だから今回、「500円」と「1,000円」のコースを選んでくださった方も、エンドクレジットにお名前を入れることにしました。
CAMPFIREのサイトではリターンを「御礼のメッセージ」としていたので、後出しジャンケンみたいで怒られちゃうかもしれませんけど。感謝の思いを表すには、どうしても全員のお名前を入れたかった。なのでひとりひとり、メールで確認を取らせていただきました。

ツールが揃ったこの時代、情熱さえあれば可能性は開かれている

ー最後に今後の『Cu-Bop』の展開について教えてください。7月に始まった東京の「期間限定上映」は毎回超満員で、10月10日より続映も決定しました。ただ地方在住の「CAMPFIRE mag.」読者は、口コミの噂は入ってもなかなか作品に触れるチャンスがありません。

高橋)8月には沖縄・那覇の「桜坂劇場」で上映していただき、すでに北海道や大阪の劇場も決まりつつあるんですが……実は今回、配給会社を入れずすべて自分たちで直接映画館と交渉しているので。どうしてもピンポイントになってしまうんですね。

本来は劇場のトークショー付きで、僕自身が観客にいろいろ説明しながら観ていただきたいんですが、なんとか来年中には本編映像だけを入れた廉価版DVDを作って自分のブログと劇場のみで販売しようかと考えています。

既存の流通を使わず直販すれば、価格も安く抑えられると思うので。その上で、今度はしっかりした写真集などを付けたDVDブックのようなものを作って、そちらは一般の流通で販売できれば理想なのかなと。

ーそれまで、フィルムと一緒に劇場を行脚する日々がまだまだ続きそうですね(笑)。

高橋)そうですね(笑)。とにかく映画をご覧くださった皆さんの顔を直接見て、お話しできるのが楽しい。キューバとキューバ音楽の現状について知っていただきたいことが、まだたくさんありますし。

今の時代、ハンディカムビデオとノートパソコンがあれば、誰にでも映画を作れる可能性はあるっていうこともお伝えしたい。あとは、ほんの少しの無鉄砲さと(笑)。クラウドファンディングをうまく利用する知恵と。僕自身、CAMPFIREに出会っていなければ、この映画を完成させることはできなかったですからね。

あふれる音楽愛と、思い立ったらすぐ現場に飛び込む行動力。それにクラウドファンディングの助けをちょっぴり加えて、世界を驚かすドキュメンタリーを作りあげた高橋さん。キューバの「現在」を切りとった瑞々しい映像は、今後もさらに広がっていきそうです。

【CAMPFIRE mag. 関連記事】

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【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary 作品情報】

監督・脚本・編集:高橋慎一

製作:Kamita Label(高橋慎一+二田綾子)
出演:セサル・ロペス / エミリオ・マルティニ / ホセ・エルミーダ / オットー・サンタナ / ルイ・エレーラ / アクセル・トスカ / アマウリ・アコスタ / ルケス・カーティス / ロランド・ルナ / アデル・ゴンザレス / ミゲル・バルデス / イレアナ・サンチェス

【『Cu-Bop(キューバップ)』CUBA〜NEW YORK music documentary】

10月10日(土)渋谷アップリンクにて、続映が決定!

連日レイトショーを基本に1日1回の上映。劇場窓口とディスクユニオン(新宿ラテン館 / お茶の水JAZZTOKYO)で前売り券を購入すると、高橋監督が撮り下ろしたキューバ写真のオリジナルプリントをプレゼント

上映日程:

  • 2015年10月15日(木) 20:40〜22:37
  • 2015年10月16日(金) 20:40〜22:37
  • 2015年10月17日(土) 10:45〜12:42
  • 2015年10月17日(土) 20:40〜22:37
  • 2015年10月18日(日) 10:45〜12:42
  • 2015年10月18日(日) 20:40〜22:37
  • 2015年10月19日(月) 20:40〜22:37
  • 2015年10月20日(火) 20:40〜22:37
  • 2015年10月21日(水) 10:45〜12:42
  • 2015年10月21日(水) 20:40〜22:37
  • 2015年10月22日(木) 20:40〜22:37
  • 2015年10月23日(金) 20:40〜22:37

会場:渋谷アップリンク
住所:東京都渋谷区宇田川町37-18 トツネビル1,2階 / 03-6825-5503
※詳細はこちらからご確認ください

(Last Update:2016年9月13日)