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世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <前編>

January 26, 2016

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世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <前編>

セコくて、狡くて、自己チューなのに、なぜか憎めない。映画を愛し、映画に溺れ、映画の現場でしか生きられない一風変わった人々──。

内田英治監督の新作『下衆の愛』が描くのは、業界の底辺に生きるそんな愛すべきロクデナシたちだ。

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▲映画『下衆の愛

主人公のゲス男を演じるのは注目の俳優・渋川清彦。他にもでんでん、忍成修吾、細田よしひこ、岡野真也、津田寛治、内田慈、古舘寛治、後藤ユウミなど実力派ががっちり脇を固めている。

低予算のインディペンデント映画ながら昨年「第28回東京国際映画祭」日本映画スプラッシュ部門でも上映され、大好評。すでに海外配給も決定している。CAMPFIREのクラウドファンディングを活用し、知恵とスキルで世界に羽ばたくフィルム制作の裏側を、2回にわけてお届けしたい。

滑稽だけど胸に迫る、ロクデナシたちの群像劇

ー『下衆の愛』、拝見しました。映画を撮るという行為に魅入られてしまったロクデナシどもの群像劇として、最高に面白かったです。業界の底辺で泥水を啜りつつしぶとく生き抜く人々の姿が、コミカルだけど愛らしく感じられて…。本作はイギリスの「サードウィンドウフィルムズ」が製作するインディペンデント作品ですが、まずは企画の成り立ちから伺えますか?

内田英治(『下衆の愛』監督))この1つ前に撮った『グレイトフルデッド』という作品が、わりと海外の観客にも受け容れてもらえて。いろんな国の映画祭で上映してもらったんですね。全部で30以上回ったのかな。

サードウィンドウフィルムズを主宰するアダム(・トレル)とも、それがきっかけで知り合った。で、「次の映画を一緒に作らないか」って声をかけてもらったのが始まりですね。

アダム・トレル(『下衆の愛』プロデューサー))うちの会社はもともと、イギリスを中心に日本やアジアの映画を配給する業務をしてまして。これまで劇場公開やDVDを通じて、80本近くを紹介してきました。

中でも『グレイトフルデッド』はすごく人気があったんですね。内田監督には、作家としてユニークなポイントがたくさんある。

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▲アダム・トレル(『下衆の愛』プロデューサー)

ーどういった部分でしょう?

アダム)まず、着眼点の面白さ。イギリスで『グレイトフルデッド』のDVDをリリースする際にインタビューしたんですが、人間の「信仰心」に深い関心を抱いているなど、自分の中にしっかりテーマを持っています。しかも撮り方もうまい。話の運びがキビキビしていて、リズム感があるんですね。

ー伝えるべき内容と文体がうまく噛み合っていると。

アダム)そう。僕の目から見ると、最近の日本映画は意味なく長すぎるものが多すぎます。60分で伝わる話を130分かけてダラダラ描いてたりする。その点、内田監督はセンスがいい。

『グレイトフルデッド』にしても、ローバジェットのインディペンデント映画だけど、大手が手掛けた商業映画と比べてもよっぽどお洒落で、映像もかっこいい。海外にセールスする際、これはとっても大事なポイント。で、次の作品を一緒に作らないかと提案しました。

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▲内田英治(『下衆の愛』監督)

ーなるほど。「ゲスな男たちの映画愛をめぐる物語」という着想は、どこから生まれたのですか?

内田)今回のプロットは前々から温めていたものじゃなく、思い付きの部分も大きかったかもしれません。僕は2004年に『ガチャポン』という商業作品で監督デビューしたんですけど、その主人公が音楽をやりたいのにうまくいかない男の子だったんです。ある種の「青春もの」でしたが、残念ながら仕上がりは今ひとつだった。

なので、もう一度「青春映画」を作ってみたいという思いがずっとどこかにあって。今回、アダムの提案をきっかけに、今の自分が撮るならどんな設定がいいだろうかと考えてみた。そこで浮かんできたのが、「映画界の内幕もの」だったという。

ーどういうところに興味を?

内田)最近、国内外の映画祭に参加するようになって、インディペンデントの映画人たちと知り合う機会がどっと増えたんですね。面白い人、強烈な個性の人が本当にいっぱいいて…。何と言うか、みんな報われもしないのにひたすら頑張ってるわけです(笑)。貧乏で、こすっからくて、でも心から映画に淫し、溺れている。そういうのって人間くさくて愛らしいなと思って…。僕には正直、彼らが作ってる作品より、彼ら自身の方がよっぽど興味深かった。

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▲『下衆の愛』撮影風景

ー『下衆の愛』でも渋川清彦さん演じる主人公・テツオが、フィルムに惹かれた原体験を語る素敵なシーンがありましたね。

内田)そう。映画って、あまたあるカルチャーの中で一番「貧乏だけど高尚」みたいな妙なプライドがあって。それってヨーロッパの映画界ともアメリカの映画界とも違う。良くも悪くも日本的だなぁと思うんですね。

「信仰」の問題を描いた前作『グレイトフルデッド』はあまり日本的テーマではなかったので、じゃあ今回は思いっきり邦画に寄せたタッチで。業界のいわば底辺を生き抜くゲスな人々を四畳半タッチで描いてみようかなと。なのでこれ、僕の中では、爽やかな青春映画でもあるんです。アダムには何度も、「こんなマイナーな話、誰も見ないと思うけど」って念を押しましたが(笑)。

アダム)いや、そんなことないでしょ。むしろシンプルなストーリーだから、海外の人にも伝わりやすいと思う。映画の作り方自体は、世界中どこでも同じだし。しかも、ああいうウサン臭いプロデューサーは、どの国に言っても必ずいるからね。

それに、この映画には本当にゲスな人って出てこないじゃない。みんなどこか愛せる部分がある。俺なんて毎日毎日、もっと悪い奴といっぱい会ってるから(笑)。こんなの全然、いい方だよ。

コストとクオリティー、収益のバランスが何より重要

ー内田監督ご自身は、日本映画の現状をどのようにご覧になってますか?

内田)うーん…正直に言うと、あまり興味がないかな(笑)。よく「日本映画の底上げを図る」とか「邦画を何とかしなくちゃ」みたいな物言いがあるでしょ。劇中でも、でんでんさん演じる団塊世代のプロデューサーが、仕事もないのにそんなようなこと言ってますけど。

いるんですよ、ああいう人。実際に。でも、あえて意地悪を言うならば、もし本当に業界が底上げされアメリカやイギリス並みのレベルになってしまったら、真っ先に仕事なくなるのはああいう人だと思っちゃうわけで…。

gesunoai_zenpen_5 ▲『下衆の愛』撮影風景[/caption]

ー言い方を変えれば、前はそこまで気にしていなかった?

内田)そうですね。商業映画の雇われ監督をしていた時期は、正直、撮れればそれでOKと思ってた節はありますね。リクープ(制作資金の回収)は、別の人間が考えることだって。でもインディペンデントの場合、そんな余裕はどこにもない。リクープしないと次の作品には進めない。それも、ただ単に資金を集めて回ればいいわけじゃなくて…。コストと作品のクオリティー、さらには収益のバランスがすごく大事になってくるんです。

企画成立のカギは、面白いスクリプト

ーたしかに制作費が高くなると、それに応じて公開規模も広げないと採算が取れなくなる。その一方でコストを絞りすぎると、映画のルック(見た目)がショボくなってしまいます。その落とし処を見つけるのが難しい。

内田)その意味で、僕はかなりラッキーだ思う。インディペンデント映画から始める若い子と違って、商業映画で身に付けた知識やテクニック、さまざまな人脈が役立ってくれているので。

『下衆の愛』の予算規模は、前作『グレイトフルデッド』よりさらに小さくなっていますが、それでもアダムがさっき言ったクオリティーが保てているのは、そのおかげだと思うんですね。

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世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <後編>

【『下衆の愛』作品情報】

監督:内田英治
プロデューサー:アダム・トレル
出演:渋川清彦 / でんでん / 忍成修吾 / 岡野真也 / 内田慈 / 津田寛治 / 木下ほうか / 古舘寛治 / 細田善彦 / 山崎祥江 / 川上奈々美 / マツモトクラブ / 新井雅人 / 後藤ユウミ / 桜まゆみ / 平岡亜紀 / 谷手人 / 伊東紅
オフィシャルサイト:http://www.gesunoai.com/