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世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <後編>

January 29, 2016

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世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <後編>

セコくて、狡くて、自己チューなのに、なぜか憎めない。映画を愛し、映画に溺れ、映画の現場でしか生きられない一風変わった人々──。
内田英治監督の新作『下衆の愛』が描くのは、業界の底辺に生きるそんな愛すべきロクデナシたちだ。

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▲映画『下衆の愛

主人公のゲス男を演じるのは注目の俳優・渋川清彦。他にもでんでん、忍成修吾、細田よしひこ、岡野真也、津田寛治、内田慈、古舘寛治、後藤ユウミなど実力派ががっちり脇を固めている。

低予算のインディペンデント映画ながら昨年「第28回東京国際映画祭」日本映画スプラッシュ部門でも上映され、大好評。

すでに海外配給も決定している。CAMPFIREのクラウドファンディングを活用し、知恵とスキルで世界に羽ばたくフィルム制作の裏側、その後編をお届けしよう。

日本映画は、英語タイトルで損をしている

ー『下衆の愛』という題名も鮮烈で、記憶に残りますね。これはどこから思い付かれたんですか?

内田英治(『下衆の愛』監督))これは脚本のかなり初期段階で決めてました。映画業界の内幕ものを考えたとき、「ゲス」「カス」「クズ」という言葉がふっと浮かんで(笑)。それってすごく日本的なニュアンスじゃないですか。3部作にできたら面白いんじゃないかと。

アダム・トレル(『下衆の愛』プロデューサー))僕は最初、「ゲス」って言われても意味が全然わからなかったよ。

内田)英語だと“SCUM(スカム)”って言うらしいんです。でもそれだと、ニュアンスがちょっと強いみたい。「ゲス」って漢字で「下衆」と書くとなおさら、ちょっと情けない色合いが出るでしょう。底辺にいるかもしれないけど、極悪ではない──みたいな。

アダム)最初、英語のタイトルは「SCUM LOVE」にしようかなと考えてました。でもそれだとプラスの語感はほとんどない。むしろ、どうしようもないクズってイメージなんですよね。響きにインパクトがあって海外のマーケティング的には悪くないけど、作品の内容とはやっぱりズレちゃう。この映画の登場人物って、悪いところ狡いところたくさんあるけど、みんなどこか憎めないでしょう。じゃないとお客さん観に来ない(笑)。

内田)それで相談して、英題は「LOWLIFE LOVE」にしました。「いかがわしい」とか「下層」みたいなニュアンスですけど。そっちの方がいいかなと。

アダム)ネイティブが聴くとちょっと違和感あるんだけどね(笑)。でも題名にリズムがある。何より、他に似たタイトルの映画がなくて、ユニークだった。これが決め手です。海外に日本映画を持っていくときは、ネットユーザーが検索することを想定して、もっと英語タイトルに気を使わなきゃダメ。映画にしても音楽にしても、日本のユーザーはまだ自発的に探そうとするでしょう。でも海外は、ネットでタイトルを調べて出てこなければ終わり。大抵の人は、そこから先へは進んでくれません。内田監督の前作『グレイトフルデッド』も実はタイトルで損してます。スペルは違うけど、入力するとバンドの方の「グレイトフル・デッド」の情報ばかり表示される。

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▲アダム・トレル(『下衆の愛』プロデューサー)

ー海外に作品を持っていくためには、そういう配慮も必要なんですね。

アダム)うん。ものすごく大事です。

ーそんな憎めないロクデナシたちを演じたキャスト陣も素晴らしかった。でんでんさん、忍成修吾さん、津田寛治さん、古舘寛治さんなど、低予算作品とは思えない錚々たるメンツが出演されていますが…。

内田)これもスタッフ集めと同じで(前編参照)、スクリプトありきなんですね。前作の『グレイトフルデッド』もそうでしたが、面白い脚本を見せれば、やっぱり役者はやりたくなる。事務所がいい顔をしなくても「出たい」と言ってくれる人はいるんですね。

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▲内田英治(『下衆の愛』監督)

ー何と言っても主人公の青木テツオ監督。この存在感が素晴らしかったです。渋川清彦さんの主演は最初から決まっていた?

内田)はい。そもそもこの企画自体が、渋川清彦ありきで始まってるところがある。それこそ「ゲスだけど憎めない」存在感を出せる俳優って、そういませんから。彼が出てくれなければたぶんこの話は撮ってないし、アダムも乗ってなかったんじゃないかな。

アダム)うん。キヨがこの映画を成立させてるところはあるよね。

内田)それくらい主人公のイメージにぴったりで……脚本も最初からアテ書きしてます。一緒に仕事をするのは3回目かな。モデル出身でお洒落なイメージの強い人ですが、実はけっこう古風で、脚本を徹底的に読み込んで役作りするタイプ。日本の役者さんは雰囲気だけでお芝居をする人も多いけど、まったく正反対で。“ザ・俳優”な人ですね。クランクインする前には「いままでの役をなぞるんじゃなく、新しい渋川清彦の顔を引き出したいんだ」という話を繰り返ししまして…。現場でもすごく頑張ってくれました。その他、脇を固めてくれた人も含めて、男性のキャラクターはけっこうすんなり決まった気がする。むしろ大変だったのは女優陣かもしれない。

ーどうしてでしょう?

内田)うーん……構えられちゃったのかもしれないですね。完成した今でこそ、ライトなタッチのコメディーだって誰の目にもわかるでしょう。でも脚本段階では、あえて曖昧な部分も残してあったので。人によってはハードな内幕ものに見えたかもしれない。そこは事前に話し合っても仕方ないところで、ホンを信じて演じてもらうしかないんですよね。じゃないと、現場で信頼関係が築けないですから。

現場に自分がいなくても、同じ映画が撮れる状態を目指す

ー役者さんへの演出では、どういったことを大切にされましたか?

内田)今回のでんでんさんや、『グレイトフルデッド』の笹野高史さんみたいな方々は、極端な話、何も演出しなくていい(笑)。最初に基本的な人物像だけ話し合っておけば、あとは現場で膨らませてくれます。でも演技経験の少ない若い子たちはやっぱり内面的な演技ができない。正直、日本の役者は基本的な感情の出し方がすごく下手なので。それは事前のリハーサルをけっこう重ねます。

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ー劇中で描かれる人たちの感情が嘘っぽくならないように、事前のプロセスをしっかり踏みたいと。

内田)そこはコダワリたい。逆に言うと、そこだけです(笑)。いま日本映画のレベルが全体に低いと言われてる大きな理由は、役者だと思うんですよ。経験値が少なく芝居のやり方も知らないんで、それまで観た数少ない映画やドラマをコピーしてるだけの人が多い。逆に言うと、ちょっとリハを重ねるだけでも、見違えるようによくなったりもするんですね。例えばプロデューサーに胸を触られて頭にくるシーンがあります。そういう経験をしてる若い子って、そう多くはないですよね。でも、「最近いつ怒ったの?」と聞いてあげて、その場面を再現してもらえば、十分にリアルな感情を掘り起こせる。

ーなるほど。だからこそリハーサルが重要になるわけですね。

内田)はい。撮影現場でできることって、実はすごく限られてる。時間の限られた低予算作品の場合は、特にそうです。映画の準備をするとき、僕はいつも、現場に自分がいなくてもまったく同じ作品が撮れる状態を目指しています。要は、準備段階ですべてを終わらせておくこと。インディペンデント映画だからこそ準備が命なんですよ。

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ー映像的には、どのようなタッチを目指したんですか?

内田)この話自体はある種の「四畳半もの」ですが、それをあまり貧乏たらしくなく…。むしろすっきりスタイリッシュに見せたかったのはありますね。こういう素材って、普通はワイドレンズで撮るケースが多いんです。それなら日本独自の狭い部屋も、広角でまるごと収められるから。でもそれだと、いかにもありきたりで安っぽい画にしかならない。なので今回は、カメラの画面サイズにはあえて横長のシネスコサイズを採用しています。実を言うと、シネスコの撮影って今回が初めてなんですけど(笑)。

ーそのリスクを取ってでも、映画全体のルック(見映え)にはどうしてもコダワリたかったと。

内田)そうですね、それは大きかった。たとえ低予算であっても映像がカッコ悪いというのは、僕は嫌なんですね。安っぽい自主映画を、わざわざ資金を集めて取る理由はない。作りたいのは、確固とした美意識と世界観を感じさせるインディペンデント映画。今回もカメラマンといろいろ相談して……たとえば引きの取れない室内シーンでは、アパートの窓から撮影機材を引き出して距離を稼いだり、いろいろ工夫しながら撮っています。

独立系の映画にとって、クラウドファンディングは格好の告知ツール

ー今回、なぜ今回CAMPFIREのクラウドファンディングを利用したのですか?

内田)これはアダムのアイデア。彼が最初、イギリスの「Kickstarter」というプラットフォームを利用して宣伝費を募ったんです。実は僕自身はあまりクラウドファンディングには馴染みがなくて…。「こんなマイナーな日本の映画に資金が集まるわけがない、プロジェクト不成立でバツの悪い思いをするだけだ」と信用していなかった。でも実際やってみたら、100万円程度の目標額を2日で達成しちゃったんですね。

アダム)電話で「成功したよ」と伝えたら、ものすごく驚いてたよね(笑)。

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▲CAMPFIREの『下衆の愛』プロジェクトページ

ーCAMPFIREで設定した目標は、字幕制作や宣伝ツール、国内配給・国際映画祭上映などに用いる「80万円」。10日間でそれを超える約86万円が集まりました。この金額はどのように決めたんでしょうか。

アダム)よく言われることだけど、クラウドファンディングには2つの側面があると思うんですね。1つは良いアイデアに対して資金援助を募ること。もう1つはプロジェクトの存在を広く知ってもらい、サポーターを作ることです。共感してパトロンになってくれた人は口コミでいろんな人に伝えてくれる可能性が高いし、FacebookやTwitterで「この案件のパトロンになりました」と告知してくれたりする。そのためにも、最初からあまり高すぎるハードルは設けずに、確実にサクセスできる額を設定することも大事だと思うんですね。

内田)実際、今回のプロジェクトでは思わぬ人から「CAMPFIREのページ見たよ」とか「サクセスおめでとう」みたいなことを言ってもらって。下手な宣伝より告知効果があるんだなって、改めて認識しました。でもその分、サクセスできなかったらマイナスな宣伝になってたかもしれない。アダムの言うように、その見極めは大事だなと。

アダム)今回『下衆の愛』では、80万円の目標金額に対して8段階のリターンを用意しました。ただトータルの目標額があまりに高すぎると、「数千円のコースに申し込んでも意味ないんじゃないか」と思う人もきっと出てくる。全体に占める出資額のパーセンテージが低くなりすぎるからです。一方、目標額がリーズナブルならば、たとえ1000円とか3000円であっても、パトロンは自分が出資したことで一歩サクセスに近付いたという実感が得られる。簡単なサイコロジー(心理学)ですが、これは大切です。

内田)いずれにせよ低予算のインディペンデント映画にとって、80万円の資金はとても大きい。『下衆の愛』の作中に出てくる人たちも、この仕組みを知ってればあんな苦労はしなくてよかったかもしれないわけで(笑)。使えるツールとして、クラウドファンディングのイメージはかなり大きく変わりました。

アダム)作品の内容や企画趣旨とも合っていたしね。何しろ『下衆の愛』は常に制作費で苦労してる映画人たちの話なので(笑)。

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▲『下衆の愛』撮影風景

ーできれば主人公のテツオに教えてあげたかった(笑)。国内では2016年4月2日より、東京・テアトル新宿にてレイトショーの公開が決まっています。それ以外の動きについてはいかがですか?

アダム)すでにロッテルダム映画祭(1月27日〜2月7日)でのインターナショナルプレミア上映は決まっていて、それ以降も各国のいろんな映画祭を回ることになるんじゃないかな。イギリスはもちろん他の国の配給会社とも話をしているところ。できるだけ幅広い国や地域の人に観てもらいたい。実際、内容がすごく面白いので、今年後半にかけて海外でも人気が出てくると踏んでいます。そうしたらまた日本に戻って凱旋上映を広げたいですね。

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映画にかける深い思いと、商業映画で培った経験と知識、それにクラウドファンディングという新しいツールも加えて、世界に羽ばたくユニークな映画を作り挙げた内田さんとアダムさん。その活躍の場は、今後もさらに広がっていきそうです。

【インタビュー<前編>はこちら】
世界に羽ばたく低予算インディペンデント映画、『下衆の愛』の作り方 <前編>

【『下衆の愛』作品情報】

監督:内田英治
プロデューサー:アダム・トレル
出演:渋川清彦 / でんでん / 忍成修吾 / 岡野真也 / 内田慈 / 津田寛治 / 木下ほうか / 古舘寛治 / 細田善彦 / 山崎祥江 / 川上奈々美 / マツモトクラブ / 新井雅人 / 後藤ユウミ / 桜まゆみ / 平岡亜紀 / 谷手人 / 伊東紅
オフィシャルサイト:http://www.gesunoai.com/